basilides2006-06-16

巻き垂れて、窓辺は閉ざされたままで、招かれぬ風は季節に似たさざめきを窓の外で不穏に奏でている。不安。それは少なからず外にあるだろう世界の残りの全てより堪え難いもので、内に開かれた窓はそこに固有な外として、薄く、光のなかに経験されていた。経験されてなお?いや、他ならぬその経験のなかで!部屋に堆積した夜の淵に潜むものがある。彼だ。彼はそこに横たえて何かをしている。それは何もしていないというのを僅かに上回っているだけであり、むしろそれをさらにいくらか下回っていた。言葉が大気のなかにたちこめて、新たな言葉は頑なに拒まれた。すでに臥所の沈み以外のどれもが彼のごくささやかな関心を惹くまでには及ばない。ただ、定めがたき彼は独断の微睡みのうちに、ついにまなこの暗い半球でもって凋みゆく己の姿を見つめ続けていた。私は、といえば老いたかんばせを見下ろして、ただ彼の微睡みが妬ましく、そして歓ばしかった。彼には死ぬ理由があった。そしてなにより生きる理由がなかった。生の勢いの絶え入るさなかに取り残されるやさしさにしじまを掃うのも憚られた。私は外を覗き、背の影に積もる吐息の引き伸ばされる音を聴いた。日々は完全に沈みきっていた。照る月はまなこを冷たく焼いた。景色は映すまなこを白々しく欺き、外界が移されて放って置かれた一つの懐かしい物語を想わせる。繁みは飛び去る。木々はゆっくりだ。それらはまわってもう後ろになっていた。夜毎の帳をかいくぐり、瞼を朱の血にそめ、手ずから身を剥いだ日々のこと。一年だ。一度も種を蒔くことのない間に、過去はその途方もない「やがて」のうちに自らの排泄物である灰にその身を埋没させた。昔話をしよう。君のことだ。そして何も告知されず、何も予期されていなかったあの明日の話を。眼前には存在しないものの翻弄するところとなるのか。そのものは現実に存在する必要さえもはや持たないというのに。しかし我々の原因だ。私の言葉は闇に追い立てられ、光射す社交の中に入っていく。(basilides「序の終り」)