basilides2006-08-15


乳房を自ら晒けだす女どもは愉快なことに、その滑稽なかたちを見過ごして、その顔はいつも慈愛に満ちているが、今ここに、塵埃にまみれたその道の片隅、微醺に痴れたか、満面に朱を注ぎ、悲しさの寒さに心をやつして、しどけなく肢体を晒す彼女はそれと見て分かるほどに母であった。かきたてられる名を惜しみ、身体はそれぞれに特定の響きを持つに至った彼女の位置を定めては誰に言わずとも知られて、もうどの名もそぐわず、彼女は美しくあることだけを楔に存在に繋ぎとめられてまるで表現されていない。まったく乏しい表現が必ずしも感情を制限しないように、彼女は意志よりも強く陰鬱な病に臥せて、およそ感じられる一切がそれとはなしに未来に在るのに対して、瞼の裏で繕われる影が未来に落ちている。場合によっては関連の仕方の違いこそあれ、その自負するところの無形の力の崇高な発展を期待しうる唯一の関係と確信していたにも関わらず、まさか哀しい原に一人。腕の長さが余らないよう両の肩を抱き寄せて身体をきつく絞るほどに不愉快で、せめて二人の距離が次いで息で測られれば十分だったが、ひと度の歎息こそが五指を絡めて混ざり合った手と手を分ちて、もう誰のためにか手さえ高く掲げてもどちらかを上にして落ちてこざるをえないのだった。裏切られていた未来が仮初めにも願いを嗤い、奥処に沈んでは濡れて、あいだ定まらぬ波の凹凸が均される間もなく、ひらかれた逍遥の途に眼路の限りたなびく光に朝がようやく始まっていた。(basilides「失墜」)