basilides2007-06-22

想念に遊ばず、夜に目を伏せ、私の足取りは距離を残して世界をどんどんと小さくする。躊躇われたのは、いくらかの家があるほとんど一つの食卓に、目の高さを後景へと退け、片方の部分を―かれと呼び、その視線の外れた一枚、二枚の透過性、あるいは許される限りの反射の前に立てば、手に収まる小さな息遣いに象られて自らに成長した私が存在との単なる一致にすぎなかったにも関わらず、彼女はまさに女であることと等価でなかったことであった。夜ごとの口づけが糸引く母語の限りとなるならば、沈黙の徴は利き指で拭われ、それぞれの人称はただかれによって否定として指示されて、ようやく言語の終わりとして肉体はそれぞれに発話のピリオドであった。大きすぎる部屋で沈黙を陽に追いやるだけの彼女の死に雨が注ぐのが聞こえた。愛によってこそ柩に最後の釘が打ちこまれ、のぞく吃者の弁舌のさなかにほどなく口があったが、自然の背後には何も文字が記されていない。(basilides「パサージュ」)