basilides2009-05-17

私は過去を顧みる。
私は抑厭せられて、苦しい残虐の中から暗い星穴の過去へと逃れた。
過去を抱こうとしたが、過去も亦ちぢれちぢれの蜘蛛の糸にからまれている。
褐色の煤が玉をなしている。
その過去は細ったなりをしてふらふらと宙に迷っている。
私はそれを死人のような力のない鉤で掻き寄せようとしている。
私は決して過去を賛美しようとはしない。
むしろそんな芳烈な香りのない過去をしげしげと嫌っていた。
その過去を引き寄せて、その中に慰めを求めようとする今の心は、
目をあてられないほどに腐乱している。
悲しみは古い沼のなかに浮く青い藻のように陰気に温かい。
嫉妬の白い鬼はいぶかしげに座っている。
紫藍色の車はせわしく過去へきしる。
私の過去は醜い蟹のようにあゆんでいる。
折れて曲がった足にはいろんな物がくっついている。
過去は香箱のなかにうたたねしている。
こわれ易いその飾りのなかに果敢ない私語をもらしている。