basilides2006-07-17

夕暮れではない。午後でもない。誰もいない。誰も踊らない。宙にくゆる紫煙の影に音はすっかり覆われて、立ちのぼる匂いはいち早く色に混じり込む。そこかしこで物自体は苦悶していた。また、それゆえに不動であった。窓の外で降りしきる意味に庭の根空木は頭を垂れて、私は吐息を匙でかき回し、希望は一様な水の下に不在の底深さを感じて、絶叫は下方の水面に沈んでは泡立ち行方知らずに静かにはじけた。巧みに配されて少しもそつのなかった激昂さえも、今では静かに回り泡立つ意味に洗われている。習慣と対立した思い出というやつはその無意味であるところのものがそれと知らせるだけの哀しさを醸すが、それさえも最低限日没の効果にすぎず、見知らぬ人と臥所で朝を迎えるときも共に見知った者たちは知りうるばかりに熱く不快な距離に歌ではなく絶叫を置くだろう。まさか同じであることは退屈でなく、どこでも時間を除いて決定的ではないが、どうしても出来事には追いつけず、形容を拒むいやはてのきわみである全体にわけて人物が書きこまれても、異なることこそが他なるものの原因で、またすべからく正しくない所以でもあった。いずれにせよ私は対称につかまってしまっている。それだけに言葉は地に口寄せ、私の動揺は最もよく吊るされる人を終に覆うまでをかいさない程に激しいものであった。きりきりと回る花嫁は自身の存在に傾倒するあまりに首で支えることが遂には出来なかったこともまた理に適ったことで、それを彼女自身が知っていたとしても何ら不思議はなかった。(basilides「姦通の手順」)