basilides2006-11-15

子供の時分で、まだ残照をたたえた庭に、口角を広げ、両手を高く掲げて飛び出でて、奥に見える暗い山に、風鈴がひとりでにそっと鳴る。軒先から漏れる蛍光に照り返る、慣れないゴムの臭いに、冷えた水を隙間なく張って、独り、諦観のくだりはそのままにして、水鉄砲で居並ぶ鉢を狙う。二階から射貫かれたのはまさかのこと。母を見れば、静かにうなだれ、あの小さな手で顔を覆うのを憚らない。祖母は夕餉の支度でこちらに背を向けている。目に見えることでようやく明らかになる事物の数々によって、私は濡れ、口の中には無味が広がっていく。やるかたないのでしばらく私は母の真似をして泣いた。やがて泣き疲れ、遂に泣くのをやめたとき、ちょうど夏は終わっていたのである。(basilides「父」)